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中小企業のM&A(5) M&Aの取引価格と企業価値
支援専門員の矢橋 敬(やばし たかし)です。
月1回・全6回シリーズで、私が過去に金融機関(銀行・証券)、監査法人系コンサルティング
会社、外資系投資ファンドなどに勤務して経験してきたM&Aや事業再生に関する業務経験
に基づいて、「中小企業のM&A」について思うところを連載しています。
このシリーズは、積極的に事業の成長や経営資源の確保を進めている事業会社の経営者の皆様を
主な読者として想定しているため、買手側に軸足を置いて書いています。
第5回目の今回は、M&Aの取引価格の基礎となる企業(事業)価値についてです。
目次
M&Aの取引価格は企業(事業)価値に基づいて
決まります。
基づいて、というのは、次回にご紹介する取引スキームその他条件によって、
買手から売手に支払う対価(=金額)は違ってくるからです。
その対価は、いずれにしても、企業(事業)価値をいくらとするか、によって
決まります。
詳しくは次回にしますが、おおむね
・株式譲渡スキームであれば、株価=企業(事業)価値-負債
・事業譲渡スキームであれば、譲渡価格=企業(事業)価値
です。
売手にとってはこれまで懸命に事業を経営してきたことの評価といえるだけに、
取引成立の最重要ポイントの一つです。
さて、収益を生む資産等の価値の評価はすべて、不動産などもそうですが、
大別すると次の
3つのアプローチ
(方法)があり、M&Aもまたしかりです。
1.コストアプローチ:
対象企業/事業の純資産価値に着目した評価方法
・簿価純資産法、時価純資産法、時価純資産+営業権 など
2.マーケットアプローチ:
株式市場やM&A市場における取引価格を基準に算定する評価方法
・類似企業比較法、類似取引比較法 など
3.インカムアプローチ:
対象企業/事業の収益力に着目した評価方法
・DCF法、配当還元法 他
その中の
DCF法が、
・買収後の複数年間の事業シナリオ/利益計画(想定)に基づいて
・類似企業の株式市場やM&A市場での取引価格も考慮して
算定するため、
最も精緻な方法です。
しかし、計画(想定)が必要かつ計算が複雑なこともあり、算定には
Excelが必要です。
したがってここでは、
Excelを使わなくても算定できる2つの方法
をご紹介して、だいたいこれくらい、という価格感を持てるように
していただければと思います。
まずは
EBITDA倍率法
です。
「EBITDA」は、エビットディーエー、エビトゥダ、エビッダなど複数の
読み方があります。
このEBITDA倍率法が
・先述したDCF法の簡易版であり、
・公表されている上場企業の財務情報と株価を使えるため、
・誰でも一定の根拠で算定しやすい方法です。
算定方法を図式化すると次の通りです。
EBITDA=営業利益+減価償却費+繰延資産償却額+のれん償却額
です。
繰延資産やのれんがない会社も多いため、簡便化して、
営業利益+減価償却費
としても問題がない場合が多いことでしょう。
事業価値(「EV」と略すことがあります)=EBITDA×EBITDA倍率
です。
分かりやすくするために仮定の数値で算定してみます。
売上高1,000百万円、営業利益100百万円、減価償却費50百万円の会社
があるとすると
EBITDAは150百万円となります。
さらにこの会社の事業価値を
EBITDAの5倍とした場合、
事業価値は750百万円、企業価値は現預金100百万円を足して850百万円
株式価値は企業価値から有利子負債450百万円を差し引いた400百万円
と算定できます。
個社別の
EBITDA倍率
は、対象企業の業界・業種・業態、ビジネスモデル、業績およびその
見通しへの評価によります。
事業価値=株式時価総額 + 有利子負債総額
EBITDA倍率=事業価値÷EBITDA
であることから、
上場企業は日々の株価にその評価が反映されて、EBITDA倍率は日々変動
します。
非上場企業は、業界・業種・業態、ビジネスモデルが類似している
上場企業のEBITDA倍率に準じて企業(事業)価値を算定しますが、
株式を自由に売買できないために、非流動性ディスカウントとよばれる
減額を30%程見込むことがあります。
次のグラフは近年の業界・業種別のEBITDA倍率の推移です。
参考までに本稿執筆時(2021年2月12日)の株価に基づくEBITDA倍率を、
よく知られた上場企業について株式時価総額順にピックアップすると、
次の表の通りです。
もう一つは
年倍法(年買法)
とよばれる、中小企業のM&Aにしか使われない算定方法があります。
事業価値=資産時価+経常(営業)利益×3~5
と算定します。
これについては、対象企業(事業)の財務諸表だけから算定することが
可能な場合があるものの、
・資産時価の算定が容易ではない
・のれん(営業権)の倍率が一般に公表されている情報から得られない
という面もあります。
もう一つ申し上げると、非上場企業の経営者の方は、一度
試しに、簿価で自社のEBITDA倍率を算定してみる
と実感がわくかもしれません。
(総資産-現預金)÷ EBITDA=EBITDA倍率です。
(債務超過の場合は、(負債合計-現預金)÷EBITDA)
この倍率が低いほど、
収益性が高く、自社を売却すると簿価より高く売れる、
つまり、
自社を売却すると利益が出る可能性が高い
といえます。
いかがでしたしょうか?
さて、次回最終回はM&Aのスキーム(取引形態)についてご紹介する予定です。
今回は企業(事業)価値をご紹介しましたが、実際の取引価格は、スキームに
よってかなり変わるのです。
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