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自動車修理技術と福祉車両で唯一無二の存在に(坪井自動車鈑金㈲)

今回のイチオシ事例は

 

昭和33年創業以来、自動車の鈑金塗装を手掛け、
多角化経営によって培った技術を融合することで、
時代のニーズにマッチする高付加価値製品の提供を実現した、
『坪井自動車鈑金㈲』さんです。

 

 

皆様、こんにちは。
支援専門員の野村昌史(のむらまさふみ)です。

 

 

今回は、自動車鈑金工場でありながら、
業界をリードする様々な取組みに挑戦し、
新型コロナウイルスという最大のピンチを乗り越えて
V字回復を実現した事例です。

 

坪井自動車鈑金のこれまで

 

昭和33年 創業者である坪井一二三が大垣市にて個人事業として坪井自動車鈑金を創業
昭和36年 坪井自動車鈑金有限会社への組織変更。本社を現在の安井町3-5へ移転
昭和42年 古宮に三菱電機㈱エレベータ部品製作加工工場新設
平成 3年 本社敷地内にコイン洗車場を完備
平成 6年 レンタカー事業の開始
平成14年 現在の代表取締役である英倖氏が責任者として入社
平成28年 古宮工場にて福祉車両・特殊車両事業の開始
     ISO14001取得。BPマネジメントシステム導入
     ロードサービス事業開始
平成29年 福祉車両認定工場取得
平成30年 テュフラインランド「プラチナ認定」取得
令和 2年 代表取締役に坪井瑛倖氏が就任
     特定整備工場 認証取得

 

 

当社は、高度経済成長期が始まってすぐの昭和33年に、当時最も勢いのあった産業の一つである自動車の鈑金塗装修理を行う工場として創業しました。

 

 

創業後はものを作れば売れる時代でもあったため、新工場の設立や機械設備を次々と導入し、規模を拡大していったことに加え、付き合いのあった知人の紹介で、多角化経営の一環として三菱電機㈱のエレベータ部品を製造する鉄工事業をスタートするなど、順調に成長を続けていました。

 

 

ところが、平成に入ると自動車産業の成長にも陰りが見え始め、消費者ニーズが多様化しつつ徐々に縮小していくことになります。

 

 

この変化の影響は当社も直接的に受けており、平成元年以降は緩やかに売り上げが減少し、平成28年には事業の維持も厳しい状況となっていました。

 

 

この頃になると、自動ブレーキや各種センサを搭載した自動車が登場し、車両そのものの販売数の減少に加えて、事故車の修理件数が大きく減少するという状態になっていました。

 

 

“このままではいけない。“

 

 

このまま事業を継続していくだけでは回復することが出来ないと判断し、これまで以上に多くの挑戦を仕掛けていくことになります。

 

 

この時、最初に取り組んだのは収益構造の改善でした。当時は、ディーラーや保険会社の指定修理業者として下請けの仕事をこなしていたため、売上の95%をトヨタ自動車に依存している状態でした。

 

 

この状況を変え、一般のお客様から直接指定して頂ける状況を作り、トヨタ自動車をはじめとするディーラーの下請け比率を下げることで利益率の改善を図ることに取組みました。

 

 

長期に亘る取組みの結果、2022年現在は下請け比率が20%となり、残っている下請けの業務についても、当社の修理技術を高く評価し、価格交渉に応じて頂ける取引先のみとなっています。この結果、利益率は大きく改善し、適正な価格でお客様にサービスを提供できる体制を構築できています。

 

 

そして、その他に平成28年から取り組んだいくつかの挑戦の中で、最も成功し、当社の主力事業となりつつあるものが福祉車両改造事業です。

 

 

これは、自動車鈑金技術に、当社しか持ち合わせていない鉄工技術を組み合わせることで、個人のお客様が障害の有無に関わらず、本当に乗りたい車に乗れるお手伝いが出来る事業です。

 

 

福祉車両認定工場も取得し、福祉車両を手掛ける競合他社に断られたお客様であっても、当社であれば対応することが出来るため、非常に多くのお客様から喜ばれ、当社が選ばれる理由となっています。

 

 

(福祉車両紹介動画)

 

その他にも、BPマネジメントシステムの導入やISO14001の認証取得、テュフラインランド「プラチナ認証」取得など、社内環境の整備に努め、「ちゃんとした会社づくり」を行ったことで、㈱ヤナセやBOSCH、BMW㈱などの高級車取扱店からも高い評価を頂き、新たな取引を開始することに繋がっています。

 

これらの挑戦の多くは、すぐに結果が出るわけではないため、取り組む中では、対外的な評価が上がって来ていることを感じていましたが、業績向上にはなかなか結び付かず、本当に苦しい状況が続いていました。

 

それでも、新型コロナウイルスという最大の脅威を乗り越えることが出来たのは、中長期の視点をもって諦めることなく挑戦を続けてきた結果だと実感しています。

 

先進安全技術と福祉車両需要への対応

 

2020年4月 自動車修理業界にとって、非常に大きな転換点となる特定整備制度が施行されました。

 

 

この制度は、自動ブレーキやレーンキープ、ふらつき警報など、先進技術を利用してドライバーの安全運転を支援するシステムを搭載した自動車を整備するために必要な設備と知識・技術を保有し、特定整備工場として認定を受ける必要があるというものです。

 

 

最新の自動車の多くに、この先進安全技術が搭載されているため、特定整備工場の認定を受けることが出来なければ、バンパーすら外すことを許されなくなり、修理できる車両が大きく制限されることになります。

 

 

これは、当社のように自動車の修理を行っている事業者にとって、致命的な問題ではあるものの、全ての自動車ディーラーが設備を保有し、技術や知識を有したスタッフを揃えることは非常に困難です。

 

 

そのため、今後は自動車の販売と修理の機能分化が加速し、特定整備工場の認定を受けている整備工場のみが生き残っていくことが出来るという状況となることが予想されています。

 

 

これを踏まえ、当社が今後も自動車鈑金塗装修理事業を継続していくためには、地域においていち早く特定整備工場の認定を取得する必要がありました。

 

 

また、当社は平成28年より自社が保有する鉄工技術と鈑金修理技術を掛け合わせた福祉車両を提供してきましたが、介護福祉施設との取引が増えてきたことに加え、高齢者や障害を持っている方からの「自分の車を改造してそのまま利用したい」という声が多数寄せられるようになっています。

 

 

福祉車両に対する需要は今後も伸びていくことが予想されています。これまでは、社会貢献やCSRの一環として取り組んできた事業ではありますが、これを機に、お客様から寄せられている声に応え、福祉車両の改造を事業の柱としていくため、専用のラインを設けて複数車両の改造にも対応できる体制を整えることに挑戦しました。

 

特定整備制度への早期対応と福祉車両の量産体制の構築

 

当社はこれまで、地場の鈑金塗装業者として、60年以上に亘って事業を営む中で、自動車保険や洗車場付き駐車場の運営など、自動車の周辺事業を手掛け、自動車修理関連サービスをワンストップで提供できる企業へと成長してきました。ここまで書いてきた通り、今後も当社が自動車鈑金塗装修理の事業者として生き残っていくために、新たな挑戦として福祉車両の改造事業を強化することに加え、特定整備制度に早期に対応し、認定を受けることが必要でした。これらを実現するための課題が以下の5点です。

 

 

【課題】

■目に見えない部分を含む車両の完全修復
■寸法測定作業の正確性向上と効率化
■福祉車両の量産体制構築
■高張力鋼板の溶接強度向上
■プラスチック溶接の強度向上

 

 

これまでの車両修理作業は、技術者が目視で車両の状態を確認し、特定できた損傷個所を修理するという方法で行ってきました。先進安全技術を搭載した車両は、ミリ単位のズレでセンサーが誤作動を起こすなど、重大な事故の原因になることもあり得ます。事故等で破損した車両を修理し、これらの各種センサーを正常に動作させるためには、目に見えない箇所の歪みまで正確に把握して完全修復を施す必要がありました。

 

 

また、故障した車両の修理に際して、これまでは新車時の寸法と比較しながら2名体制の手作業で測定を行ってきました。少しのズレがセンサーの動作に影響を与えてしまうため、この測定作業は非常に神経を使う作業であり、多くの時間をかけて実施していました。それでも、手作業での測定では限界があるため、測定作業の効率化と正確性の向上が課題となっていました。

 

 

福祉車両の改造については、改造を希望されるお客様の状況に合わせて通常の整備とは異なる箇所を触ることになります。そのため、寝板を使用することも多く、中腰姿勢での作業時間が多くなる傾向がありました。また、繰り返し作業が少ないため、効率化も進んでおらず1台当たりの作業時間が長くなることが多く、効率化を進めていくことも課題となっていました。

 

 

さらに、福祉車両は健常者と違い、車両にもたれかかるようなしぐさが必要になることも多く、一般車両とは異なる部分に体重がかかる状況を想定した改造を施す必要があります。当社の福祉車両改造をより多くのお客様に選んで頂くためには、車両が破損したことによって新たな怪我を負うことが無いように、高張力鋼板やプラスチック部分の溶接強度を強化する必要がありました。

 

 

これらの課題を解消し、特定整備制度への早期対応と福祉車両の量産体制の構築の両方を実現するため、令和元年度補正ものづくり補助金を活用して以下の設備を導入しました。

 

■導入設備一覧■

 

取組の成果

 

今回の取組みで、特定整備制度に対応するための設備と福祉車両用設備を導入したことで、特定整備工場としての認定を受けることが出来たことはもちろんですが、他社に断られて当社にたどり着いた障害を抱えたお客様に専用の福祉車両を提供できる体制を構築することが出来ました。

 

 

具体的には、導入したエーミング機器を使用して従来の修理方法で完全に修復が出来ていたのかを測定したところ、特に非熟練者による修理について、いくつかのサンプルで新車時の数値から乖離しているということが確認できました。この数値に基づいて修理を加えることで新車時の状態に完全修理することが出来ることはもちろん、スキャンツールを活用することで完全修理出来ていることの証明も可能となりました。

 

 

また、故障車両の測定作業については、手作業の2名体制で行っていた従来の状態が、1名で対応できるようになり、作業時間も従来の20%以下の時間に短縮することが出来ました。

 

 

福祉車両の改造については、専用ラインを設置してリフトを導入したことで、作業時間を40%以上削減することが出来たため、より多くのお客様の要望に応えることが出来るようになりました。

 

 

さらに、高張力鋼板およびプラスチックの溶接については、せん断および引っ張り強度の測定を行った結果、従来の溶接方法と比較して、1.5倍以上の強度を確保することが出来るようになりました。

 

 

これにより、特定整備工場として高度化する自動車の安全技術にも対応しながらも、より多くのお客様に障害を抱えても自分が本当に乗りたい車に乗れる状態を提供することが可能となります。

 

坪井自動車鈑金のこれから

 

今回の取り組みによって、増加傾向にある先進安全技術(ASV)を搭載した車両の完全修理に対応できるようになり、特定整備制度への早期対応が出来ました。また、問い合わせが増加している福祉車両の改造についても生産性が向上し、より多くのお客様の要求に応えられる体制を構築することが出来ました。

 

 

すでに特定整備制度への対応が遅れている同業他社が受けられない案件が、当社に依頼されるようになってきている他、福祉車両の改造に関する依頼も以前にも増して増加してきています。

 

 

当社がこの取組みを行った後に、事故に遭われて障害を抱えたことで、普段頼っていた整備工場やディーラーから対応を断られ、落ち込んでいるお客様との出会いがありました。

 

 

「障害を抱えてしまったけれど、大切にしてきた愛車に乗り続けたい」

そんなお客様の想いに応えたいという強い気持ちをもって、当社でこのお客様の愛車を福祉車両に改造する仕事を受けました。

 

 

このお客様は大変喜ばれ、改造を担当した当社のスタッフに『本当にありがとう』と伝えて頂いたことで、スタッフもあらためて仕事の楽しさを知ることが出来たと語っていました。

 

 

この一件を通して、当社はスタッフ一丸となって、お客様の『心からのありがとう』を集めることが出来る組織になっていこうと気持ちを新たにしています。

 

 

利益をしっかりと確保し、

お客様に本当に必要とされる

やりがいのある会社へ

 

当社は地域で唯一の『高い自動車修理技術を持つ福祉事業者』として、これからも地域の皆様の安心と安全を支え、自動車を愛する気持ちに寄り添うことで、成長・発展を続けていきます。

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