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中小企業のM&A(6) M&Aの取引スキームその他

支援専門員の矢橋 敬(やばし たかし)です。

 

月1回・全6回シリーズで、私が過去に金融機関(銀行・証券)、監査法人系コンサルティング

会社、外資系投資ファンドなどに勤務して経験してきたM&Aや事業再生に関する業務経験

に基づいて、「中小企業のM&A」について思うところを連載してきました。

 

このシリーズは、積極的に事業の成長や経営資源の確保を進めている事業会社の経営者の皆様を

主な読者として想定しているため、買手側に軸足を置いて書いています。

 

最終回である第6回目の今回は、M&Aの取引スキーム(形態)およびその他補足についてです。

 

M&Aの取引スキーム(形態)

 

前回第5回でM&Aの取引価格の基礎となる企業(事業)価値についてご紹介しましたが、

 

M&Aの取引スキーム(形態)によって取引価格、厳密にいうと何にいくら支払うか、が

変わってきます。

 

代表的なスキームごとには、以下の通りです。

 

株式譲渡

 

は、

・事業、資産および負債は現状のままで

・株式を売買することによって買手が経営権を取得する

・買手は株式の対価として企業価値から負債を差し引いた金額を支払う

というものです。

 

スキームとしては最も単純明快です。

 

ただ、

・複数ある事業のうち一つの事業だけを譲渡したい場合や、

・借入金過多、隠れた債務などから事業を切り離したい場合には

向きません。

 

そのような、株式譲渡スキームだと問題がある場合には、

 

事業譲渡

 

というスキームがあります。

それは、

・一定の事業目的のために組織的/一体的に機能している

・有形無形の資産/負債ならびに契約関係を

・個別具体的に特定して

・まとめて一つの契約で売買する

・買手は事業の対価として事業価値相当の金額を支払う

 

というスキームです。

 

ただ、買収したい事業に必要な許認可や契約関係などを事業譲渡だと

引き継ぐことができない場合もあります。

 

 

 

そんな場合には

 

会社分割

 

というスキームもあります。

それは、

・まず売却対象の事業とそうでない事業ごとに会社を分ける

・売却対象会社の株式を売買することによって買手が経営権を取得する

・買手は株式の対価として売却対象会社の企業価値から負債を差し引いた

 金額を支払う

というものです。

 

手続などは煩雑になりますが、株式譲渡または事業譲渡の短所を回避したい

場合に使えることがあるスキームです。

 

 

ここでこれらの

各スキームのメリット/デメリット

 

を整理すると次の表の通りです。

M&Aの目的は、第1回でもご紹介した通り、

 売手側にとっては、

  経営からの引退や投資回収のための手段である 一方、

 買手側にとっては、

  事業を行うために一体的に組織/管理されている経営資源

  -顧客や取引先などの基盤、事業ノウハウ、人材、

  -工場・店舗・機械装置などの設備、

  -特許や商標やブランドなどの知的資産 など

  をそのまままるごと購入するための

手段です。

 

売手側も買手側もウィンウィンでその目的を達成するためには、

・企業(事業)価値/取引価格 

だけでなく

・取引スキーム

も重要なのです。

 

 

さて、ここからは最終回ということで、

 

その他補足

 

をします。

 

第4回でご紹介した

アドバイザー/仲介業者

 

には、

依頼すると当然に、手数料/報酬(フィー)を支払う必要があります。

 

手数料/報酬体系は各社様々ですが、

伝統的かつスタンダードな体系は、

成功報酬:「移動総資産額」 × 5%~1% または 最低報酬額

成功報酬額とは別途:手付金 and/or 基本合意時の中間金

です。

 

「移動総資産額」とは、

 

上記の各スキームの図で「売却対象/資産」と書いてある青い部分です。

第1回でご紹介した

経済産業省/中小企業庁が定めている「中小企業M&Aガイドライン」

基づくと、「主に譲渡額に負債額を加えた」金額です。

 

 

 

 

 

 

 

「移動総資産額」は、

M&A同様に資産の所有権が移転する、不動産売買取引と対比してみる

と次の図の通りです。

 

M&A取引の「移動総資産額」に相当するのは不動産売買取引の「売買金額」

であり、

不動産仲介業者への手数料は「売買金額」ベースの金額ですから、

M&Aのアドバイザー/仲介業者への手数料/報酬が「移動総資産額」ベース

になるのは一定の合理性があるといえます。

 

最後に、

 

新型コロナウィルス感染拡大の影響

 

が日本の中小企業のM&Aにあったかどうか?

調べてみました。

 

日本の中小企業のM&Aの件数の正確な統計はありませんが、

2018年版中小企業白書と同様の手法で推移を見ると(*)、つまり、

上場しているM&Aアドバイザー/仲介業3社

((株)日本M&Aセンター、(株)ストライク、M&Aキャピタルパートナーズ(株))

が公表している成約件数の合計値の推移を見ると、次のグラフの通りです。

 

*:2018年版中小企業白書 p306ご参照

 

この件数は氷山の一角であるため、件数そのものより増減のトレンドが重要だと

思います。

 

2014年~2019年までは毎年一貫して前年比+20%以上増加していましたが、

2020年は横ばい(前年比▲1%)でした。

前年までの増加ペースを考慮すると、2020年は、コロナの影響が大きく

実質GDP成長率▲4.8%)、コロナがなければ2019年までと同様のペースで

増えていた可能性がある、と考えられます。

 

なお、経済指標として、各年末の日経平均株価および実質GDP成長率の推移も

記載してありますが、M&A件数の推移との明確な相関関係は見受けられません。

 

したがって、基本的な増加要因は、第1回でご紹介した、

①経営者の高齢化 ②同族外承継の増加 ③黒字廃業が過半数あること

であると考えられます。

 

 

 

 

これでこのシリーズ連載はおしまいです。

中小企業のM&Aについての基本的な事項はざっとご紹介できたと思います。

だいたいこんな感じだということを分かっていただけたら幸いです。

 

半年間にわたってご購読いただきまして、ありがとうございました!

 

 

 

 

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