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人に光を当てる経営(㈱坂井製作所)

今週のイチオシ事例は、岐阜県が整備した産業団地「テクノプラザ」(各務原市)

にて非鉄金属の精密切削加工業を営む株式会社坂井製作所です。

友好的な事業承継型M&Aによる成長を図っている事業者による、ものづくり補助金

の活用の事例として、支援専門員の矢橋がその現場を取材してきました。

 

私が当社に注目したきっかけは、当社が今年の7月に...

 

 

J-Net21が「コロナ禍でがんばる中小企業・商店街」としてピックアップ

 

した全国の9社のうちの1社だったことです。

J-Net21は、中小企業基盤整備機構が運営する、中小企業とその支援者などのための

情報を発信するポータルサイトです。

 

“下請け製造業の新ビジネスモデルを発信”

 

というタイトルの当社の特集記事には、

 

コロナ禍で当社の強みであるパートさんの出社がままならず、減産減収を余儀なく

された時期があったものの、働き方の改革や新たな営業ツールの開発、買収した

会社の営業強化、ロボットの導入によるビジネスモデルの改革、新たな分野である

美容機器部品製造の収益化などの対策により、逆に会社を強くできたこと、

また、

加工のみ・組立のみの「点」からグループ力を活かした「面」の営業へのシフト

よる成長を目指すために、友好的な事業承継型M&Aを行っていく計画であることが

書かれていました。

 

事業承継/M&Aのアドバイスを得意分野とする私としては、ぜひイチオシ事例として

取材したい!と思ったことは言うまでもありません。

 

 

そんな当社の

 

現在の主要製品は蛇口や水栓金具などの非鉄素材の金属部品

 

です。

精密切削加工による、人の肌に直接触れても良い金属製品を製造してきた長年の

ノウハウがあり、先述した美容機器部品の製造にも進出しています。

 

ただ、水回り製品だけに特化しているわけではありません。

むしろ、当社の製品は世界的には過剰に高品質な国内の水道水に最適化している

ために、当社の水回り製品での成長は限定的であることから、それ以外の分野へ

の展開や自社ブランド商品の開発を図っています。

 

 

 

こんな一見華々しい当社ですが、製造現場は地道な努力の積み重ねでできていて、

常に課題はあります。

 

課題であったことの一つがニップルの組立工程の効率化であり、当社は

 

ものづくり補助金の活用

 

によりこれを解決しました。

 

ニップルとは、

お風呂の混合栓の本体とパイプやシャワーホースなどを接続する金属部品です。

 

 

<混合栓>                 <ニップル>

 

機械加工した円筒形の金属部品にオーリングという丸いパッキン部品をはめ込むこと

によりニップルが完成するのですが、このはめ込む工程を従来は内職者の手作業で

行っていて、

 

部品の送付と完成品の受領のリードタイム短縮、品質の改善、柔軟な増産体制などが

課題でした。

 

そこで平成29年度補正ものづくり補助金を活用して自動組立機を導入して、この工程

を自動化し、リードタイムを4分の1に、不良品率をほぼゼロに、最大生産量を20%以上

増加させて、課題を解決しました。

 

 

<自動組立機>

 

 

<オーリング>               <金属部品>

 

<自動組立機によりオーリングを金属部品にはめ込み、ニップル完成>

 

 

 

さて、冒頭のJ-Net21の当社の特集記事のタイトルの通り、当社の

 

経営ビジョンは『下請け製造業の新たなビジネスモデルを発信する』

 

です。

当社の藤田社長には、日本の下請け製造業全体についての

・狭く浅いスペシャリスト型の中小零細企業が多く、

・大企業メーカーとの間で直接ノウハウを共有する機会が少なく、

・営業面でも組織化/仕組み化できていない

という課題意識と、

 

それを、当社が

・後継経営者がいない下請け企業をM&Aで譲り受けてグループ化し、

・大手メーカーと直接取引できる中堅企業に成長して、

今までになかった最適なサプライチェーンを作ること

によって解決したい、という戦略があります。

 

すでに2社、

2020年10月に野村精機株式会社(海津市)

:自動車、水道、ガス、医療機器、装飾などの用途の小径ものの切削加工が得意

2021年3月に株式会社サンエース(各務原市)

:水回り製品および美容機器の組立、各種検査、製品パッケージ梱包が主業務

 

友好的な事業承継型M&Aを通じてグループ化しています。

 

これは、

・既存事業の隣接分野に事業領域に進出して事業ノウハウや顧客基盤を統合し、

・商流/工程において自社が占める上流から下流の幅(付加価値)を拡大し、

・顧客に対してグループ内の別の製品/サービスを提供する(クロスセル)

というM&Aの教科書通りの展開だと見受けられるため、

 

『下請け製造業の新たなビジネスモデルを発信する』というビジョンに着々と

近づいていると私は思います。

 

<イメージ図>

 

 

ところで、藤田社長がM&Aにおいて最重要視する点は「人」だとのことです。

従業員が残ってくれて、当社グループの一員としてついてきてくれるだろうか?

ということを一番気にしていて、かねてから当社では

 

人に光を当てる

 

経営をしてきたということでした。

 

実はそれを徹底的に可視化したモノがあります。

 

毎年度更新して、従業員全員に配布される冊子「経営方針書」です。

 

経営理念から始まり、目的と使命、行動指針に止まらず、定量面/定性面の計画、

そして、各従業員一人一人が今期にすべきことまでが書かれています。

 

 

<2021年度「経営方針書」>        <理念/目的と使命>

 

 

 

<行動指針>

 

 

私は、従業員一人一人にまでブレイクダウンした事業計画の類を見たのは初めて

で、とても驚きつつ、かつて勤務したある外資系企業の人事評価のポリシーを

思い出しました。

 

それは、仕事として「したこと」だけを評価対象として、性別や容姿や性格など

の「であること」は評価対象としてはいけない、その一方で、上司は部下に何を

どれだけどうすべきか明確に指示する義務がある、というものでした。

(360度評価なので上司も部下の評価を受けます)

 

私は6つの会社に勤務したのですが、そこはとても良い会社だと今も思います。

 

 

当社は今後より多くのステークホルダーにそう思われる会社になることでしょう。

 

 

 

 

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