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湯峰峠からアジアに 生産拠点のグローバル展開とDX(湯峰ソーイング㈱)
今週のイチオシ事例は、1975年(昭和50年)に飛騨市河合町(当時は吉城郡河合村)で
創業して以来、一貫して衣服の縫製業を営みつつ、生産拠点をアジアに展開してきた
湯峰ソーイング株式会社です。支援専門員の矢橋が生産管理の現場を取材してきました。
目次
飛騨の山深い地、湯峰峠にて創業
当社のウェブサイトは創業について、
「物語は御伽の国、飛騨の山深い地、湯峰峠から始まります。半世紀前、山林の中のカイコ
の養蚕小屋跡で湯峰ソーイングと命名した小さな縫製工場が操業を始めました。」
と記しています。
実は私は岐阜県民でありながら「湯峰峠」を知りませんでした。
ググってみると、湯峰峠は高山と白川郷の中間地点くらいにあります。
こんな山深いところの養蚕小屋跡からスタートした当社は、
今では年間160万着以上の衣服を有名ブランドにOEM供給可能
な生産体制を築き上げています。
製品の種類としては、スーツ、カジュアル、スポーツ等ほとんどの種類、女性向けと男性向け
の両方の衣服を生産していて、例えば、世界的に有名なアウトドア衣料ブランドの1着数万円
台のダウンジャケットなどもOEM供給しています。
当社のウェブサイトに記載されている得意先を見ると、大手一流アパレルブランド/商社が
ずらっと並んでいます。
<当社ウェブサイト>
<当社岐阜事務所のショーウィンドウ 製品とベトナムの風景画>
ここまで業容を拡大するために、当社は
およそ10年ごとに大きな生産拠点の展開
をしてきました。
飛騨市の中で河合村から古川町に進出して古川工場を建てたのが最初でした。
一方で1980年代に日本の繊維/縫製業は大きな曲がり角を迎えました。
日本の産業構造が、労働集約産業(特に軽工業)主体から資本集約産業主体に転換して、
労働集約産業は肝心な労働力の確保が日本国内では容易でなくなってきたのです。
1985年(昭和60年)のプラザ合意によって円高体質になり、比較的安価な製品は輸入
する方が合理的になったことも産業構造の転換に拍車をかけました。
1980年から1990年までの10年間の製品分野ごとの輸入の増加と労働者数との相関を
分析した資料によると、「繊維工業製品」と「衣服・その他の繊維製品」の輸入増に
よる労働者数の減少が、他の製品分野に比べて大きいことが分かります。
<「グローバル化と労働市場-日本の製造業のケース-」日本政策投資銀行 設備投資研究所 p32>
1990年代の初頭には、縫製業が生産を維持拡大するには東北地方か海外の開発途上国
に生産拠点を設けるしかない、という状況になってきました。
そこで当社は、1990年(平成2年)からの中国視察などの検討と準備を2年間重ねて、
1992年(平成4年)に中国での生産を開始
しました。
最初の海外生産拠点は中国の江蘇省の合弁企業、南通湯峰時装有限公司でした。
中国の江蘇省ではもう一つ、2005年に日本独資で泰興得利満工房服装有限公司を設立
して生産拠点としました。
そして次はベトナムです。
中国工場を開設して数年後にベトナムで事業を開始した当初はなかなか成果が出なかった
ため、ベトナムからの撤退を考えていた時、ベトナム人の通訳の方が、私の生まれ故郷は
仕事がない人であふれている、と教えてくれました。
そこはタイビン省タイビン市でした。
すぐに現地に出向いて工場建設を決めて、現地法人LANLAN CO., LTD.を設立、
2000年(平成12年)にベトナム タイビン省での生産を開始
しました。
ここが現在では当社の主力工場に成長しています。
そしてベトナムでもう一つ、ゲアン省イエンタイン県に現地法人MLB TENERGY CO., LTD.
を設立して、2年間かけてタイビン省のLANLAN CO., LTD.で人材育成を行い、
2013年(平成25年)にベトナム ゲアン省での生産を開始
しました。
こうして、当社の生産拠点は、中国の江蘇省に2工場、ベトナムのタイビン省とゲアン省の
4拠点となり、海外スタッフの総数は2,000人超に至っています。
日本とアジアの産業構造の変化に対応して、当社は、自社顧客、海外生産拠点の従業員と地域、
自社など、関係者すべてがwin-winとなるビジネスモデルを築き続けてきたといえます。
ただ、それはまた、経営や対顧客営業などを行う国内3拠点(飛騨市古川町の本社、岐阜市
の岐阜事務所、東京都内の東京事務所)と海外生産4拠点がうまく連携する必要がある、
ということでもあります。
アパレル業界は、多品種化、小ロット化、短サイクル化が進み、EC(インターネット通販)
主体の小売業がそれを加速しているという状況にあり、生産管理の高度化が当社の課題
でした。
具体的には、顧客からこういう服を作ってほしいのだけど、という見積依頼を受けてから
当社が納期を確定できるまでに、エクセルデータを国内拠点と海外拠点との間で電子メール
でやりとりしながら10日程かかっていて、短サイクル製品の受注が伸び悩んでいたのです。
そのため当社は、
平成29年度補正ものづくり補助金を活用
することにより社内システム(「経営改革21システム」)を構築して、納期を確定できるまで
が2日間になりました。
国内拠点と海外拠点がこの社内システムで一元的につながり、製品の仕様、材料、工程、物流、
所要時間などの情報をリアルタイムで可視化して共有し、各拠点の担当者が効率的に生産計画
や見積を立てて納期を確定することが可能になったからです。
<経営改革21システム:製品の図面・仕様データなど>
<経営改革21システム:製品アイテム/生産ロット単位のスケジュール>
<経営改革21システム:輸送中の製品は船の絵で一目瞭然>
こうした取り組みは、
DX
の一つといえます。DXとは、
「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」が2018年(平成30年)に公表した
『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』によると、
「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム
(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、
モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品や
サービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエ
ンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」
と認識されています。
当社の取組は、システム構築/生産管理の高度化により、顧客に提供できる価値(納期確定速度)
を向上させて競争上の優位性を確立するものであり、第3のプラットフォームはまだ利用して
いませんが、DXの一つだといえます。
ちなみに、
デジタル技術活用(DX)において、人材の重点配置が必要だと企業が考えている工程や活動
は、生産管理が最多です。
<2021年(令和3年)版ものづくり白書 p130>
私はここでも、視野を広く持って事業環境の変化に対応していくことの重要性を教えて
いただきました。
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