イチオシ事例
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旨みがギュッと詰まったフルーティーな清酒
「月日は百代の過客にして、行きかふ年も又旅人也」
元禄文化期の俳人松尾芭蕉による紀行文「おくのほそ道」の序文です。
「おくのほそ道」が発刊されたのが、元禄15年(1702年)。
元赤穂藩士大石良雄以下47人が、吉良上野介義央の屋敷に討ち入ったのも、元禄15年12月14日(1703年1月30日)。
今回、お邪魔してきた「中島醸造」は、この時代に酒造りを始めました。
以来、約320年。
岐阜県瑞浪市で酒造りを続けてこられています。
こんにちは。
ものづくりセンター支援専門員の石井です。
来年(2022年)、320周年を迎える瑞浪市「中島醸造(株)」にお邪魔してきました。
苦難の時代
中島醸造は、蔵の歴史は約320年ととても古いのですが、酒造りに関しては、伝統の技だけではなく現代の技術を上手に取り入れられ、時代にそくした酒造りを実践されています。
1997年(平成9年)。
それまでの普通酒中心の酒造りから「特定銘称酒」中心の酒造りへ大きく舵を切られます。
実はこの頃は、酒類業界の転換期だったんです。
清酒の消費量が右肩下がりで、アルコール市場の中で清酒のシェアが年々減少。
酒類小売免許の規制緩和に伴い、旧来の酒販店の店舗数が減少。
つまり、中小の蔵元にとっては、コロナ禍に次ぐ苦難の時代だったのです。
多くの蔵元が普通酒中心の酒造りから特定銘称酒への転換を図った時代です。
そして、2001年(平成13年)。
新たなブランド「小左衛門(こざえもん)」を立ち上げます。
小左衛門(こざえもん)
小左衛門(こざえもん)がターゲットとしたのは、「酒専門店」です。
この頃、酒類小売市場では旧来の酒販店の動向が分かれていきます。
それまで、お酒の販売は定価販売が当たり前だったのですが、規制緩和等によりお酒のディスカウントチェーンが店舗数を広げ、値引き合戦時代に突入します。
「お酒の安売り」が始まっていたのです。
当然、旧来の酒販店の経営は厳しくなります。
酒販店が選ぶ道は、「廃業」「業態転換」の2つしかありません。
その「業態転換」もさらに2つに分かれ、「コンビニエンスストア」と「酒専門店」に分かれていきます。
酒専門店は、量が売れるが利益を出しにくいビールではなく、量は出ないが利益を出しやすい「地酒」や「本格焼酎」「ワイン」等の取扱いを増やしていきます。
酒専門店自体が、自店の取り扱い商品を厳選して、特色を出していきました。
小左衛門(こざえもん)は、この「酒専門店」をターゲットにしました。
地道な営業努力の甲斐もあり、現在では、日本全国の酒専門店(約130店舗)とお取引されています。
海外進出
海外にもいち早く目をつけました。
営業の中心を担うのは、営業統括部長の中島さん。
ご自身、カナダに留学していた経験もあり、海外への進出はごくごく自然の流れだったのではないかと思います。
現在では、カナダ・ドイツ・オーストラリアを中心に、38か国に輸出をしています。
営業体制もしっかり整えて、海外担当がお一人。海外営業のサポートにお一人(国内勤務)。
しかも、英語が堪能な社員が4割いらっしゃるそうです。
売上も、国内70%。海外30%まで伸びてきました。
コロナ禍の影響が薄れてきたら、さらに海外への割合を伸ばす予定だそうです。
酒造り
中島醸造は、現在では「3季醸造」を実現されています。
通常、酒造りは寒い時期。
9月か10月頃に造りを始めて、年を越して3月頃に造りを終えます。
酒造りの期間は、6か月程度です。
この半年の間にできたお酒は、一度、「火入れ」をしてタンクに貯蔵され、蔵内で春・夏を過ぎ熟成された頃(秋)に、ビンに詰めて商品化します。
つまり、お酒ができてから商品として販売されるまでに最低でも6か月。
商品によっては、1年かかるのです。
市場の変化が激しい現代では、このサイクルは蔵にとっては負担になります。
そこで、中島醸造では造りの期間を長くすることによって、一回の仕込の量を減らし、市場の変化にも柔軟に対応できる生産体制を整える取り組みを始められました。
同時に、「生酒」にも力を入れられます。
造りの期間を長くし、生酒に力を入れることによってお酒の回転率を上げたのです。
造りの期間を長くすると、一回の仕込量が少なくてすみます。
同時に、「生酒」は、従来のように造ってから6か月から1年蔵内で熟成させる必要がなくなります。
つまり、造ってすぐに販売することが可能になるのです。
(従来)造り ⇒ 6か月から1年 ⇒ 販売
(生酒)造り ⇒ 販売
同時に、市場の動向に合わせて造る量を調整することができますし、販売状況に合わせて造るお酒そのものを変える事ができます。
例えば、「純米酒」を仕込む予定をしていたのに、「大吟醸」の在庫量が少なくなってきたので、急遽、「大吟醸」の造りの量を増やす、という生産調整が可能になってきます。
日本酒は、一般的に2回火入れを行います。
酒を仕込んでタンクに貯蔵する際に1回。
仕込みタンクから貯蔵タンクにお酒を移動させる際にお酒そのものの温度を60~65度に上げます。
そして、タンクから瓶に詰める際に1回。
「生酒」はこの火入れを一切行わないお酒の事です。
中島醸造では仕込みから貯蔵、熟成まで一貫して酒造りに最適な温度管理を実現させました。
このことによって、旨みがギュッと詰まった微炭酸・フレッシュでフルーティーな清酒の供給を可能にしています。
こういった生産体制を整えることができたのは、「平成26年度補正ものづくり補助金」を活用したからなのです。
発酵から熟成まで一貫した低温管理商品の製造
地球温暖化の進行とともに、昨今、気温が著しく変化するようになってきました。
この事は、酒造りにおいては逆境であり、従来の経験に基づいた熟練の技への依存度が高まり、同時に熟練者への負荷の増大という問題を引き起こしていました。
そこで中島醸造では、発酵工程から熟成工程までを一貫して低温管理できる生産体制を整えることを目指され、ものづくり補助金に挑戦されました。
これらの設備を導入した事により、発酵工程から熟成工程までの一貫した低温管理が実現しました。
気候による酒質への影響を極力抑えるとともに、化学的根拠・定量的データを整備し、経験の浅い従業員でも判断と作業が行える生産体制を構築することができました。
結果、これまで以上に安定した品質の商品供給が可能になりました。
無濾過生原酒 直汲(じかぐみ)
中島醸造では、発酵時に発生している炭酸ガスを極力逃さないようにビン詰めした商品「無濾過生原酒 直汲(じかぐみ)」を展開されています。
この商品は、中島醸造が独自に生み出した製法だからこそ実現しました。
特徴としては、旨みがギュッと詰まった微炭酸・ジューシー・フレッシュでフルーティーなお酒で、市場では新しい商品カテゴリーとして確立されています。
これからの中島醸造
世界的なパンデミックを巻き起こした新型コロナウイルスは、飲食店や旅館・ホテル等に大打撃を与えました。
メディアは、飲食店や旅館・ホテル等の事ばかりクローズアップしますが、このコロナ禍は、飲食店に商品を納めている業者にも大打撃を与えているのです。
当然、中島醸造も影響を受けています。
この逆境を跳ね返すべく、蔵元はそれぞれに様々な対応策を考え実行してきました。
同時に、一社だけでは発信力にも限りがありますので、蔵元同士が協力しあって、様々な日本酒の啓もう活動を繰り広げられています。
中島醸造も同様に、下記の取り組みに参加されています。
日本酒蔵元応援プロジェクト(2021.6.1~2021.12.31)
コロナ禍もやがては下火になり、海外との人の行き来も復活する時が来ることでしょう。
海外輸出に強い中島醸造は、その時のために着々と準備を進めてらっしゃいます。
最後に。
お忙しい中、取材にご協力頂きました中島部長。
本当に、ありがとうございます。
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