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『伝統×革新性 地域と世界を繋ぐハブとなる』(檜創建㈱)

今回のイチオシ事例は

 

中津川地域の特産である檜と伝統的な木工技術を活かして、日本の伝統的な製品である木製の浴槽に新たな価値を加えることで世界を相手に成長を続けてきた『檜創建㈱』さんです。

 

皆様、こんにちは。
支援専門員の野村昌史(のむらまさふみ)です。

 

今回は、前身である木工会社での実績を踏まえ、
地域の特産である檜を使用した木製浴槽に
新たな価値を加えることで様々な危機を乗り越え、
自然と暮らしを繋げる企業として発展してきた事例です。

檜創建のこれまで

 

1993年 恵那郡坂下町(現中津川市)にて檜創建株式会社設立 / 東京営業所開設
1995年 ホテル木曽路の大浴槽工事を受注 / 建設業許可 大工工事業取得
2000年 ひのき介護浴槽「ヘルパーアシスト」発売
2004年 小栗 幹大が代表取締役に就任
2010年 ホテル・レストランショーにてデザイン浴槽「O-Bath」の発表
2014年 ミラノサローネ TDW in MILAN出展
2015年 建設業許可 建設工事業・内装工事業取得
2016年 WOOD FURNITURE AWARD パリ出展
2019年 大阪営業所 開所 / 本社事務所 新設
2020年 東京展示場 開設
2021年 大阪展示場 開設

 

 

当社は、前身となる会社における木製浴槽の販売・施工実績を踏まえて、平成5年現代表取締役の父である小栗正實が現在と同じ中津川市に設立したところから始まりました。昔ながらの「桶作り」で培った技術を活かし、地域の伝統産業である木製浴槽を一つ一つ手作業で仕上げてきました。

 

 

丁寧な仕事が評価され、大手のホテルで当社の浴槽を採用して頂くなど、順調に成長を続けていく中で、最初の転機となったのは、近隣の介護老人保健施設からの相談でした。

 

 

施設で働くヘルパーさんが利用者様の入浴で大変な苦労を強いられているため、この状況を変えることが出来ないかとの相談を受け、2000年に初めての自社オリジナル商品「ヘルパーアシスト」をリリースしました。

 

 

翌年に国際福祉機器展に出展したことがきっかけとなり、ヘルパーアシストが大きな話題となったことで、当初の成長は加速することになりました。

 

(ヘルパーアシストの一例)

 

そんな矢先、創業者の小栗正實が急逝し、現代表取締役である小栗幹大が事業を引き継ぐこととなります。

 

 

ヘルパーアシストの売れ行きが好調だったこともあり、急な代表変更となっても大きな問題が起きることは無く、成長を続けていた当社でしたが、2008年にリーマンショックが起きたことで状況は一変します。

 

 

全国的に消費が落ち込み、売上が大きく減少する事態に追い込まれた当社でしたが、この状況を救うきっかけは岐阜県が主催した「オリベ想創塾」でした。

 

 

この塾に参加した小栗幹大は、伝統的な木製浴槽にデザインを融合させることに挑戦すると決めました。

 

 

この挑戦を決めた当初、木製浴槽づくりが伝統産業であったということもあり、番頭さんが現場を仕切る旧態依然とした体制でしたが、新たな価値創造に挑戦するためにこの体制からの脱却を図りました。

 

 

社外だけでなく、社内にも反対派が多いという逆風の中で、2010年にデザイン浴槽「O-Bath」を発表。

 

(O-Bathの一例)

 

その後、“中小企業が日本でPRしても大手に真似されたら勝てない“と考え、デザインの文化に造詣があり、日本人からも一目置かれているフランス・イタリア・シンガポールの展示会に出展し、海外で有名になってから日本に逆輸入するという戦略をとります。

 

 

この戦略が上手くハマり、デザイン浴槽「O-Bath」は当社の主力商品であった「ヘルパーアシスト」に並び、当社の主力商品へと成長しました。

 

 

十分に製品として認められ、売上が伸びてきたことで、当時は理解を得られなかった社内外の人達も、今では率先してO-Bathを広げるために奔走してくれています。

 

 

危機を乗り越えて、成長することが出来たのは先代から伝えられた3つの教えがありました。

 

(3つの教え)

一. 危機の時こそ挑戦できるだけの蓄えを持て

一. 人がやらないことをやれ

一. 利は元にある

 

 

3つの教えがあったからこそ、危機に際しても諦めることなく、より付加価値の高い商品の開発に挑戦し、今日に至ることが出来ています。

 

インバウンド需要の増加に備えて

 

当社の木製浴槽は、これまで書いてきた通り伝統的な桶作りの技術を活かして、一つ一つ職人による手作業で製作しています。ここに、框(かまち)を浴槽の基礎とする革新的な製造方法を掛け合わせることで誕生したのが、デザイン性の高い木製の浴槽「O-Bath」です。

 

 

第一弾となるO-Bathの発表から10年以上が経過し、その間もデザイナーや専門家と協業することでモダンでありながら和の要素を兼ね備えた新たなデザインの商品を開発してきました。

 

 

商品ラインナップが増えて、顧客の選択肢が増えたことに加え、国内外の展示会で積極的にPRを続けてきたことで、徐々に認知度が拡大し、O-Bathの売上は10年間右肩上がりで増加していきました。

 

 

また、2018年には訪日外国人が3,000万人を突破し、国としても新たなインバウンド対策が必要になるという情報を発信しており、2020年に控えている東京オリンピックや2025年の大阪万博に向けて、当社のO-Bathに対する需要がますます拡大することが確実な状況でした。

 

 

しかし2018年時点で、増え続ける受注量に、全ての工程を職人の手作業に頼ったこれまで通りの生産体制では対応できる数量に限界が見え始めていました。

 

 

今後ますます高まる需要に応え、1つでも多くの製品を届けることでブランド力を強化し、競争力のある企業へ成長するためにも早期に量産体制を構築する必要がありました。

 

加工精度向上×リードタイム短縮による量産体制の構築

 

当社はこれまで「桶作り技術を活かした手作業での浴槽づくり」にこだわり、木製浴槽に新たな価値を加えることでお客様のニーズに応えながら成長してきました。前述のとおり、当社が今後も成長・発展を続けていくために、木製浴槽の新たな可能性を秘めているデザイン浴槽「O-Bath」を一人でも多くのお客様に届ける体制づくりが必要でした。これを実現するため、乗り越える必要があった課題が以下の3点です。

 

 

【課題】

◆製品品質を左右する框の加工精度向上

◆需要に応えるための生産リードタイムの短縮

◆コスト削減のための不良率低減

 

 

O-Bathの製造において、重要な役割を担っている框は、CADで作成した図面に基づいて側面の切削や溝の掘削を行う必要があります。手作業による加工では、これらの工程で切削機にあてる角度が少しでもズレると、最終的に接合する段階で誤差が生じてしまいます。この誤差を減らすため、この工程では何度も作業を止めて寸法を測定する必要があり、ボトルネックとなっています。これを解消し、量産化を実現するために加工精度を向上させる必要があります。

 

 

また、この框の加工において特に溝を掘る作業では、深さ10mm×幅10mmの溝を掘る必要があるため、框1個につき約7回の掘削を行うことになります。O-Bath1槽につき框8本を使用するため、50~70回の掘削作業が必要となる計算であり、工程の中でも最も多くの時間を必要としています。

 

 

さらに、これらの工程の中で削りすぎによる不良が一定量発生することを前提として、現在は予備用の材料を3割程度購入しているため、余分なコストが発生しています。

 

 

これらの課題を解消し、一人でも多くのお客様に当社のO-Bathを届けるため、平成30年度補正ものづくり補助金を活用して以下の設備を導入しました。

 

→NCルーター NCN1210 (SHODA)←

 

変形や曲型などの加工や試作開発加工の活用を目的として開発された木工製品加工用のNCルーター。CADで作成したデータを取り込んで作業が可能である他、1/10mmの精度で外周・溝・ほぞ・穴開けなど框の加工に必要となる全ての加工を1台で賄うことが出来る。

さらに、4軸制御機能や多様なツールをストックすることができるため、框の加工だけでなく、当社の強みでもある自由なデザイン設計力で新たな製品開発への対応も可能となる

 

取組の成果

 

今回の取組みで、NCルーター NCN1210 (SHODA)を導入したことで、地域伝統産業でもある木製浴槽製造業にデザインという新たな価値を掛け合わせたO-Bathの製造時間を大幅に短縮することが出来ました。

 

 

具体的には、100%手作業で生産していた当初は、浴槽1槽分の框8本を製造するために5日間を要していましたが、この時間が大きく削減され、約1時間20分に短縮されました。この時間短縮には、側面の切削工程や溝の掘削工程が自動化されたことに加え、それぞれの工程間で寸法を測定し、手直しする調整加工が不要となったことが大きく寄与しています。

 

 

また、導入した設備を使用した加工を行うことで、側面の切削加工・曲面加工・溝の掘削加工の全てにおいて加工誤差を±0.2mm以内に抑えることが出来ました。これまでの手作業と比較しても、より高い精度での加工が可能となり製品品質を高めることが出来ました。

 

 

さらに、加工精度が向上したことにより、加工不良の発生を無くすことが出来たため、これまで毎回用意していた予備材が不要となりました。この結果、余計なコストを抑えることに成功しました。

 

 

今回の取組みによって、当社が抱えていた問題を解決するための各種課題が全て解消され、目的としていたO-Bathの量産体制を構築することが出来ました。

 

 

これにより、これまで以上にたくさんのお客様に高いデザイン性という新たな価値を持つ木製浴槽を届けることが出来ると考えています。

 

檜創建のこれから

 

今回の取組みによって、インバウンド需要の増加に対応するために、増え続けている国内観光業のお客様からの注文に応えることが出来る生産体制を構築することが出来ました。

 

 

ところが、この取組みの直後、2020年はじめに国内で新型コロナウイルスの感染拡大が発生し、国内の観光業は壊滅的な被害を受けました。訪日外国人旅行者数も1/100になり、当社の製品売上にも大きな影響を与えています。

 

 

当社のような建設業界では、需要減少の影響が1年遅れで表面化するため、2021年3月から大きく売上が減少しました。2022年秋頃まで長期間に亘って売上が回復せず、苦しい状況が続きました。

 

 

当社は先代から事業を引き継いで以降、『危機の時こそ挑戦できるだけの蓄えを持て』という教えを大切にすることで成長を続けてきました。この姿勢をこれからも貫くことが今後の当社の成長には必要だと考えているため、新型コロナウイルスで苦しい状況だからこそ、新しい挑戦が必要です。

 

 

新たな挑戦として、伝統産業である木製浴槽にデザインを取り入れてきた活動をアップデートし、木製浴槽とアートを融合することで、新たな価値を国内外に広げていくことを考えています。現在は、これを実現するため、アート×木製浴槽の各種イベントを主催しています。

 

(当社主催のイベント一例)

 

 

また現在、新しい業界への進出を図る目的で、終末医療に関わっていくための高齢者向け施設の建設を行っており、その立上から運営を当社にて担っていく計画を進めています。

 

 

『守るための挑戦を』

 

同じことをやり続けていても生き残っていくことはできません。当社が扱う木製浴槽は地域の伝統産業でもありますが、伝統にこだわり続けると価格競争に巻き込まれることになります。
当社はこれからも、自分たちにしか出来ない新しいことを仕掛けていき、従業員や会社を守るための挑戦を続けていきます。

 

 

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