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リチウムイオン電池製造に不可欠な高精度ローラー(㈱三栄舎ローラ製造所)
今週のイチオシ事例は、1933年 (昭和8年)に創業して以来、産業用の金属ローラー等の製造をして
いる株式会社三栄舎ローラ製造所(本社本巣市)です。
ものづくり補助金を活用してリチウムイオン電池市場とともに成長し、2019年(令和元年)に法人化
した当社に興味を持った支援専門員の矢橋がその現場を取材してきました。
目次
産業用の金属ローラー
といっても様々ですが、当社は
回転バランスに優れた高精度ローラー
に特化して、
繊維、フィルム、食品、建材などを製造する機器の中で
材料や製品を送り出したり巻き取ったりする機能を持つローラーを製造しています。
<当社製品の一例>
回転バランスとは、回転する機器が回転した時に発生する振動が少ないことであり、
JIS(日本産業規格)には「釣合い良さ」として規定されています。
これが良いほど、
高速で回転させて生産速度を上げることが可能になり、また、ローラーの軸受の劣化や
稼働時の騒音が少なくなります。
身近な例としては、普通の自家用車のタイヤ/ホイールも回転バランスを取っています。
新品のタイヤに交換する時に、タイヤを付けたホイールをくるくる回す機械にかけて、
重りを張り付けているところを見たことがあるかもしれませんが、そうすることにより
回転するタイヤ自身から出る振動を少なくして走行性を高めているのです。
そんな当社は、
創業当初は印刷機械のローラーを製造
していました。昭和8年ですから、まだ戦前です。
この時代に高精度ローラーを必要としていたのは印刷機械だったのですが、工業製品の
生産品目の流行り廃りにより当社が受注するローラーの用途はかなり変わりました。
例えば、20~15年程前だと液晶テレビや太陽光発電機のパネル部品の生産用のローラー
の受注がとても多くありましたが、現在は少なくなっています。
つまり、
紙や繊維やフィルムなどの薄いものを高い精度で高速で送り出したり巻き取ったりする
機能をする高精度ローラーは
とても汎用的な産業機械部品
であることから、
当社はその時々のニーズに柔軟に応じて約90年間続いてきたといえます。
当然ながら技術的な優位性を築く努力も継続していて、
1)外径切削 2)(特に長尺ローラーの)内径切削 3)回転検査
をワンストップで提供できる数少ないローラー製造事業者になっています。
そして近時はそのために必要な設備投資に
ものづくり補助金を活用
してきました。
まず
平成28年度補正ものづくり補助金を活用して
ローラーの長尺化に取り組みました。
CNC精密旋盤を導入して、
・加工可能な長さの改善:4.0mから9.5mに延長
・9.5mの製品の回転バランスの確保:4.0mのものと同じ水準
を達成し、
食品包装材料の需要増加にともなう包装フィルム大型化に対応しました。
<CNC精密旋盤>
次に
平成29年度補正ものづくり補助金を活用して
リチウムイオン電池用セパレーターフィルム製造用ローラーの検査体制の強化に取り組みました。
バランシングマシンを導入して、
・内製化:従来は外注していた1トン以上の製品の検査を5トンまで内製化
・期間短縮:1次検査の期間を30日から5日に、最終検査の期間を15日から3日以下にそれぞれ短縮
を達成しました。
<バランシングマシン>
その次に
平成30年度補正ものづくり補助金を活用して
リチウムイオン電池用セパレーターフィルム製造用ローラーの切削工程の高度化に取り組みました。
CNC精密旋盤を導入して、
・切削加工時間短縮(外径、内径、仕上げ)
・面粗度(表面の滑らかさ)確保のための研磨工程の内製化
・面粗度の改善
・納期短縮:7日から5日に短縮
を達成しました。
<CNC精密旋盤>
さて、平成29年度および平成30年度のものづくり補助金で生産を強化した
リチウムイオン電池用セパレーターフィルム製造用ローラーは、
リチウムイオン電池の製造に不可欠
なものです。
液系リチウムイオン電池の中には
セパレータフィルム
という、電池内の絶縁をしたり異常発熱時の安全装置として機能するフィルムがあり、
このフィルムを製造する機械にローラーが必要だからです。
<リチウムイオン電池 イメージ図>
リチウムイオン電池を含む
蓄電池の市場は全世界的に継続的に成長
することが予想されています。
当社がリチウムイオン電池のセパレーターフィルム製造用ローラー受注に戦略的に動いた
のはそれを見越してのことです。
<蓄電池産業戦略(2022/8/31 蓄電池産業戦略検討官民協議会 p3)>
ただ、国産リチウムイオン電池は技術優位で初期市場を確保したものの、
市場の拡大にともなって中韓メーカーがシェアを拡大している
という状況にあります。
<蓄電池産業戦略(2022/8/31 蓄電池産業戦略検討官民協議会 p4)>
これに対して
蓄電池産業戦略検討官民協議会 が2022年8月に出した「蓄電池産業戦略」では、
国内製造能力目標が定められました。
「国内の自動車製造の安定的な基盤を確保するため、2030年までのできるだけ早期に、国内の
車載用蓄電池の製造能力を100GWhまで高める」(グリーン成長戦略、2021年6月決定)
ことに加え、
蓄電池の輸出や定置用蓄電池向けに必要となる製造能力の確保も念頭に、遅くとも2030年までに、
蓄電池・材料の国内製造基盤150GWh/年の確立を目標とする。
というものです。
<蓄電池産業戦略(2022/8/31 蓄電池産業戦略検討官民協議会 p14)>
一方、需要についても先述した
「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2021年6月決定)にて
自動車の電動化目標が以下の通り設定されていて、
・乗用車は、2035年までに、新車販売で電動車100%を実現。
・ 商用車は、
ー小型の車については、新車販売で、2030年までに電動車20~30%、
2040年までに電動車・脱炭素燃料車100%を目指す。
-大型の車については、
2020年代に5,000台の先行導入を目指すとともに、
2030年までに2040年の電動車の普及目標を設定。
需給一体の国内蓄電池産業戦略
が描かれているといえます。
<2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 自動車・蓄電池産業>
私は今回、汎用的な強みを変遷する成長分野で活かしていくことについて教えていただきました。
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